ウィズダイバーシティ発起人の福寿満希(株式会社ローランズ代表取締役)が、一般社団法人東京都中小企業診断士協会認定の「ソーシャルビジネス研究会」でウィズダイバーシティの取り組みについて講演いたしました。
本投稿では、講演の様子を抜粋してお伝えします。
ソーシャルビジネス研究会とは
ソーシャルビジネス研究会は、経済産業省から経営コンサルタントの国家資格として唯一認定されている中小企業診断士の研究会です。地域活性化や新しいソーシャルビジネスのあり方の追求など目的として定例会、視察等を通じた事例研究や執筆活動、啓発活動等を積極的に行っています。
12月の定例会は、同じく中小企業診断士の研究会である、ダイバーシティ研究会との合同研究会として開催されました。
本講演の概要はこちらをご参照ください。
講演の様子
もっと働きたいという夢をもつ障害のある子どもたちの受け入れ先になる会社を
ウィズダイバーシティの発起人である福寿は、特別支援学校の実習で障害者雇用の課題に直面しました。「お花屋さんになりたい」と夢を語った子どもに対し、担当教員から「ほとんどの子は働かずに生涯を終えます」と告げられたことに衝撃を受けました。
「もっと働きたいという夢をもつ障害のある子どもたちの受け入れ先になる会社をつくりたい」との思いから、福寿は2013年、23歳のときに花屋「ローランズ」を一人で立ち上げました。そして、2016年から障害者雇用を開始しました。現在、ローランズでは約80名の従業員のうち55名が障害や難病と向き合いながら働いています。その約8割は女性で、花が好きな人々が集まっています。
花は「ありがとう」など感謝の気持ちを表す場面で使われることが多く、ローランズのスタッフは、花に乗せた「ありがとう」の思いを伝えることにやりがいを感じています。
日本では働ける年齢の障害者約365万人のうち、多くが未就労の状態
日本政府は一定規模以上の企業に障害者を雇用するよう定めた「法定雇用制度」を設けています。この制度は1960年に身体障害者雇用促進法として始まり、現在の法定雇用率は2.5%(40人に1人)ですが、2026年7月には2.7%(37.5人に1人)に引き上げられます。しかし、働ける年齢の障害者約365万人のうち、多くが未就労の状態にあります。
東京都の調査によれば、1,000人以上の企業では実雇用率が2.51%である一方、小規模企業(43.5~100人未満)では0.89%に留まっています。障害者雇用には業務の切り出しや環境整備といった準備が必要であり、小規模事業者ほどそのハードルが高いのが現状です。
福寿がローランズを拠点に活動を広める中、中小企業から「障害者雇用を進めたいが、環境整備などのハードルが高い」という声が多く寄せられました。また、障害福祉事業所では営業活動にリソースを割けないため、障害者雇用を増やしたくても営業ができないという課題もありました。
ウィズダイバーシティの仕組み〜実雇用率は法定雇用率の約3倍
そこで、福寿は東京都の戦略特区制度を活用し、異業種の中小企業が障害者を共同雇用する仕組みとして、2019年に全国初の取り組みとなる「ウィズダイバーシティ」を立ち上げました。
2023年からは全国が算定特例制度の認定対象となり、現在では東京だけでなく岡山県や山梨県の企業も参加しています。2024年7月現在、参加企業は14社にのぼり、日本一の参加企業数を誇ります。
ウィズダイバーシティは、中小企業と障害福祉事業者が組合となり、障害者雇用を一緒に増やしていくことを目指しています。
組合に参加している企業は、障害福祉事業者に一定額以上の業務を発注することで障害者の雇用を新たに生み出します。企業は発注額に応じた成果物(商品・サービス)を受け取ることができるほか、共同で障害者雇用を創出していることで法定雇用率を満たしながら、障害者雇用促進事業に参加することができます。
これまでにウィズダイバーシティが創出した障害者の新規雇用数は24人、組合全体の実雇用率は7.51%(2024年7月現在)です。
一般就労(企業との直接雇用)の増加も目指す
ウィズダイバーシティでは、最終的には福祉的サポートがなくても働ける状態の方たちをいかに輩出していけるかということが重要だと考えています。
最初は福祉的サポートを受けながら、障害福祉事業所でウィズダイバーシティに参加している企業から発注された様々な案件に従事することで、多様な経験を積みスキルを伸ばすことができます。
中小企業企業1社での雇用だと、事務や清掃作業といった仕事が多くなる傾向があるほか、1社だけでは障害者に切り出せる仕事の種類も限られてしまいます。ウィズダイバーシティでは60種類以上の業務があるので、障害者が自分の「得意」や「できる」仕事に出会うことができます。その結果、当事者の方が自信をもって仕事に取り組むことができるようになり、一般就労(企業との直接雇用)に移行しています。これまでにウィズダイバーシティに参加している障害福祉事業所から一般企業に就職した障害者は32人です。
ビジネスセクターと障害福祉事業者の接点を増やすことが、障害者雇用拡大につながる
これまで、ビジネスセクターと障害福祉事業者の接点はほどんとありませんでした。お互いの接点ができることで、障害者雇用に対する不安が消え、自社雇用が増えた企業も、ウィズダイバーシティの参加企業の事例として生まれています。
1社だけでは障害者雇用のハードルが高い中小企業と、障害者雇用と人材育成のノウハウを持つ障害福祉事業者がチームとなることで、お互いの強みを生かし、障害者雇用を増やすことができる仕組みが、ウィズダイバーシティです。
質疑応答、懇親会
講義のあとは、参加者から積極的な質疑がありました。当日いただいた質問は次のとおりです。
・ウィズダイバーシティに障害福祉事業所側が参加する場合のコストを教えてほしい
・組合参加企業の適切な企業数についてどのように考えているのか
・集団の中で働くことが苦手な人が、集団の中で働くことができる工夫としてどんなことができるか
・地方だと障害者が就職できる企業そのものも少ない。障害福祉事業所も少ないので、地方で障害者雇用を増やすためのお考えがあれば聞かせてほしい
・ウィズダイバーシティについて中小企業にどのように伝えればわかりやすいと思うか
・組合企業を増やすために苦労している点があれば教えてほしい
質疑応答のあとは、会場参加の皆様と、ローランズから提供したケータリングを囲みながら懇親を深めました。