2025年6月4日(水)14時から、SCC千駄ヶ谷及びローランズ原宿にて、ウィズダイバーシティ有限責任事業組合が主催する勉強会を開催しましたので、お知らせいたします。
この会はウィズダイバーシティに参加している企業の勉強会として位置づけているほか、障害者雇用の課題や取り組みについて広く理解を広める場とするため、メディア関係者の皆様ほか、これから障害者雇用を進めたいと検討されている中小企業の経営者・人事担当者に向けて、広く参加者を募集しています。当日はウィズダイバーシティ参加企業も含め、約40名の方にご参加いただきました。
本レポートではイベントの内容をご紹介しながら、中小企業が、地域の障害福祉団体と共に雇用を作る、新しい障害者雇用の仕組みについてお伝えします。
勉強会の開催概要はこちらのプレスリリースをご参照ください。

基調講演〜中小企業の障害者雇用は、1社でやらない。みんなでやる!
最初に基調講演として、ウィズダイバーシティ発起人の福寿から、障害者雇用を取り巻く社会情勢や、ウィズダイバーシティの仕組みについて説明しました。
障害者雇用促進法について〜54%の企業は法定雇用率未達成

日本では1960年制定の「障害者雇用促進法」に基づき、一定規模以上の企業には障害者雇用が義務付けられています。現在の法定雇用率は2.5%ですが、2026年7月からは2.7%(37.5人に1人以上)への引き上げが決まっています。
しかし、中小企業は「障害者を雇用したいが、任せる業務が切り出せない」「専任スタッフがいないのでフォローが難しい」などといった課題があり、障害者雇用が進んでいません。法定雇用率が未達成の企業は54%(※)です。
ウィズダイバーシティ有限責任事業組合の仕組み


ウィズダイバーシティ発起人の福寿は、障害者スタッフが約7割働く花屋「株式会社ローランズ」を経営するなかで、顧客企業から「ローランズにたくさん業務を発注しているのに、自社で障害者雇用ができていないから、企業としての法定雇用率は未達成になっている」という声を多く聞きました。
そこで、福寿は東京都の戦略特区制度を活用し、中小企業が障害者福祉事業所に定期的な業務をすることで法定雇用率を満たすとともに、中小企業と障害者福祉事業所がともに障害者雇用を創出する仕組みとして、2019年に全国初の取り組みとなる「ウィズダイバーシティ有限責任事業組合」を立ち上げました。
障害者雇用のかたちの例として、「自社雇用」「特例子会社」「サテライト」という3つの大きな区分がありますが(上図右)、ウィズダイバーシティは中小企業と障害者福祉事業所がチームとなって障害者雇用を促進する、新しい仕組みです。
ウィズダイバーシティの成果〜一般企業への就職も創出、全国平均5倍以上


ウィズダイバーシティには、現在中小企業が13社、障害者福祉事業所が3社参加しています。障害者福祉事業所に定期的な発注が集まることで、働く障害者のスキルが高まり、結果として障害者福祉事業所を卒業し、一般企業へ就職した障害者も増えています。ウィズダイバーシティは組合を創設した2019年から合計して51人の障害者が、福祉的サポートを卒業し、一般企業への就職を実現しました。ウィズダイバーシティに参加している障害者福祉事業所は、全国平均(1.24人)より5倍以上の一般企業就職を創出していることも特徴です。
ウィズダイバーシティは、今後中小企業から障害者福祉事業所への業務発注を通じた障害者雇用の創出だけでなく、働く障害者が一般企業への就職を実現することを目指します。
対談:ベンチャー・フィランソロピストも注目する、ウィズダイバーシティの挑戦


鈴木 栄氏
一般社団法人ローランズプラス(本社:東京都渋谷区、代表理事:福寿満希)は、ソーシャルインパクト投資機関である「日本ベンチャー・フィランソロピー基金」より、経営支援を受けることが決定しました。この経営支援には、ウィズダイバーシティの運営も支援対象となっています。
(詳しくは下記プレスリリースをご参照ください。)

そこで、ローランズへの経営支援を担当しているソーシャル・イノベーション・パートナーズ(SIP)代表理事兼CEO 鈴木 栄氏をゲストに招き、福寿との対談を行いました。
ベンチャー・フィランソロピーとは?

日本ベンチャー・フィランソロピー基金では、資金提供と経営支援を行い、社会的意義の高い事業の拡大を後押しします。ベンチャー「フィランソロピー」である理由は、経済的リターンを求めず、社会的リターンのみを追求していることからです。主に事業拡大の課題となる、組織スキルとキャパ強化に注力して支援しています。
“支援の対象”ではなく、“パートナー”として関わることが、障害者雇用のあり方を変える
ここからは、対談の内容を抜粋してお伝えします。
福寿:鈴木さんが初めてウィズダイバーシティの仕組みを知ったとき、率直にどう思われましたか?
鈴木:とても良い取り組みだと思いました。私はこれまで大企業向けの投資案件に携わることが多く、特例子会社の仕組みにも接してきました。ただ正直に申し上げると、特例子会社という仕組みには、良い部分もある一方で、「残念だな」と思うところもあったんです。
福寿:というのは、どういう点でですか?
鈴木:特例子会社で働く障がいのある方々の存在を、親会社の従業員が知らないケースが多いんです。同じグループにいながら、働く姿が見えない。これでは一緒に働いていると感じられないのではないかと。
それに比べてウィズダイバーシティは、中小企業が業務を切り出して組合の中の福祉事業所に発注し、そこに障害者の雇用が生まれるという構造がユニークです。しかも、その納品物を受け取る社内の人たちが、「この仕事をしてくれているのは、あの福祉事業所の、あの方たちなんだ」と認識できる。これはすごく重要なポイントです。
ウィズダイバーシティは、障害のある方が「どこで・誰と・どのような関係性で」働いているのかがはっきりしています。その透明性と実態があるからこそ、私たちも支援を決めました。
障害者雇用を、人事総務だけの仕事にしない。コミュニケーションで相互理解が深まる
福寿:私達も、ウィズダイバーシティでこだわっているポイントとしては、人事や総務だけではなく、マーケティング部の方から発注いただいたりなど、人事や総務部門だけでないコミュニケーションを生んでいることにこだわっているので、その点を評価いただけたのは嬉しいです。
鈴木:当事者の方とコミュニケーションをすることで、「なるほど、こういうことができるんだな」と、「こうやって貢献してもらえるんだな」という理解が広がると良いなと思っています。“支援の対象”ではなく、“仕事のパートナー”として関わる——これが、社会全体の障害者雇用に対する目線を変える鍵になると感じています。
さらに、障害者雇用が難しいなと思っている中小企業が、まずウィズダイバーシティに入ってもらう。まず発注と成果物の受取から当事者の方とのコミュニケーションが増えていって、結果直接雇用も増えていく、その橋渡しがウィズダイバーシティができればよいと思っています。
障害者福祉事業所で働くスタッフの声


ウィズダイバーシティの取り組みを支えるのは、中小企業と福祉事業所の連携だけではありません。働く障害のあるスタッフ一人ひとりが、仕事を通じて自分自身と向き合い、日々の努力を重ねているからこそ、高い成果物の納品につながっています。
勉強会の後半では、ウィズダイバーシティに参加している障害者福祉事業所で働く、フラワー部門・事務センター部門・アート事業の働くスタッフにお越しいただき、声を紹介しました。
フラワー部門スタッフ:Aさん〜「できる仕事」が増えて、教える立場に
Aさんは、観葉植物のラッピングや胡蝶蘭の下準備、花束の制作など、多岐にわたる業務に取り組んでいます。最初はひとつの作業に30分かかっていた工程も、今では効率的にこなし、後輩に教えるまでに成長。企業からの定期的な発注によって経験が積み重なり、「次は花束やアレンジのスピードを上げたい」とさらなる挑戦を語りました。
「陶器やお箸セットの仕事も、形状ごとの違いに対応できるようになりました。企業からの依頼が、自分の成長の場になっています。将来は花屋として一般就労すること、そして、まだ働けていない人に勇気を与えたいです」
フラワー部門スタッフ:Bさん〜「自分だけのマニュアル」で不安を乗り越える
Bさんは、過集中や音への過敏さ、記憶の難しさなどと向き合いながら働いています。ご自身の特性と向き合い、会社から支給されているマニュアルのほか、自作のマニュアルで業務を細かく記録しています。業務の進捗も上司から複数回のチェックを受け、ミスを防ぐ工夫を重ねています。
「お花に触ったことがない状態から始めて、今では1万円台の祝い花も作れるようになりました。今後は会場装花など、さらに大きな作品にも挑戦したいです。将来的には、自分と同じように悩む人を支える側になりたいです。」
オフィス部門スタッフ:Cさん〜遅刻早退欠席なしで出勤できるようになった
10年ほど引きこもりの時期があったというCさんは、現在、企業からの受託業務や社内業務、施設外就労に日々取り組んでいます。当初苦手だった電車移動も、「働きたい」という思いから、混雑を避けながら調整し、いまでは遅刻早退欠席なしで出勤できるようになりました。
パソコン操作やイラストレーターでの名刺制作など、新しいスキルにも積極的に挑戦しています。
「社会生活をするためには自分から社会に近づくことも必要かなと思い、それが働く準備と言われるものかなということを考えまして、自分のこだわりが強いことを受け入れて、自分が納得いく形で自分に付き合いつつ仕事をしています。スピードより丁寧さを大切にしたほうがいい、というアドバイスを受け、丁寧さを大事にしています。」
アーティスト:Dさん〜「描くこと」で社会とつながる
Dさんは、アーティストとしてレンタルアートに活用される絵を描いています。複数月かけて取り組む作品もあり、構想は家事中や就寝前にも続くそうです。以前は人との会話が苦手で涙が出るほどだったものの、現在では落ち着いて話せるように。仕事を通じて「居場所」と「役割」ができたことが、次の目標を見据える力になっています。
「小さい作品であれば1ヶ月、大きい作品だと3ヶ月くらい製作します。ありがとうファームで絵を描けたことが、人生の転機になりました。独立も視野にありつつ、この環境で働き続けたいという気持ちも強いです。」
働く障害者をどうサポートするか
企業の自社雇用を増やしていくためには、働く障がい当事者のスタッフをどうサポートするか、という点が課題になります。そこで、今回の勉強会では「障害者のサポート」の事例をご紹介しました。
事例①ローランズファーム


神奈川県横須賀市にあるローランズファームは、「花も人も、ありのままで咲き誇る」をコンセプトに運営されています。ここで育てた花を、ウィズダイバーシティ参加企業から発注をうけた花商品に活用しています。ここでは、障害のある方たちが花の栽培やポプリづくり、椎茸の収穫、農園内の環境整備など、多彩な仕事に日々取り組んでいます。
在籍しているのは13名。年齢も障害の種類もさまざまです。知的障害や発達障害、高次脳機能障害、聴覚障害、うつの経験がある方など、多様なメンバーが、互いの違いを尊重しながら働いています。


現場で何より大切にしているのは、「自分で考えて動く力」を育てること。作業の予定はホワイトボードに記載し、誰がどの区画を担当するかも目で見てわかるように工夫されています。読みづらさに配慮して書類やテプラにはすべてふりがなを振ったり、名札をつけたり、清掃の手順を写真やラベルで見えるようにしています。
聴覚障害のスタッフが所属しているため、ローランズファームのスタッフ全員に筆談ボードを配ることで、コミュニケーションが円滑にできるようサポートしています。


一人ひとりに合わせた補助具の工夫もあります。たとえば、「花を収穫するときの長さがわからない」というスタッフからの声をいかし、目印付きの棒を導入しました。


そして、現場では日常的に小さな相談が飛び交いますが、それとは別に、本人の希望でじっくり話せる面談の時間も設けています。面談は事前予約制とし、自分で「何を、いつ、どれくらいの時間で話したいか」を考えてから提出するというプロセスを儲けることで、働くうえで必要な「相談する力」も育成しています。
事例②SABON Japan〜ウィズダイバーシティに参加したら自社雇用も倍以上に増えた


ウィズダイバーシティに参加したことで、自社での障害者雇用が大きく進んだ企業のひとつが、ナチュラルコスメブランドを展開する株式会社SABON Japanです。2023年4月の参加当初、同社の障害者雇用数は4名でしたが、2024年6月には10名にまで拡大。本社での事務サポート業務に加え、店舗でのラッピング資材の準備や在庫管理など、販売を支える役割でも活躍するメンバーが増えています。勉強会当日、SABON Japan 人事責任者の竹村様、店舗のマネージャーと連携して障害者雇用を進める店舗人事マネージャー佐藤様に事例をお話いただきました。
── ウィズダイバーシティに参加されてから、自社の障害者雇用にはどのような変化がありましたか?
竹村様:
改めて数を確認してみたのですが、2023年4月の参加当時は障害者雇用が4名でした。それが今年の6月には10名にまで増えていました。私自身「そんなに増えていたんだ」と、ちょっと驚いたくらいです。
最初はなかなかうまくいかなくて、採用しても辞めてしまって…というサイクルが続いていました。でも徐々に社内の理解が深まり、受け入れる体制ができてきたことで、採用・定着ともに安定してきました。いまではオフィスの受け入れ枠がいっぱいになって、店舗での雇用も進めています。
── 現在、どのような業務を担当されているのでしょうか?
竹村様:
本社では、事務や庶務のサポート業務が中心です。店舗では、在庫管理や納品物の仕分け、ラッピング資材の準備など、販売を支える「付帯業務」を担当してもらっています。一部では、接客を担当しているスタッフもいます。
── 定着のために意識して取り組んでいることはありますか?
佐藤様:
月1回の定期面談を必ず実施しています。メンター制度も導入していて、入社直後から相談できる環境を整えています。また、人事評価についても、障害のある社員が目標を持ちやすいように工夫し、「頑張りがきちんと認められる仕組み」を用意しました。
そして、通院が必要な方も多いため、「通院のための休暇制度」も新たに設けました。小さなことの積み重ねが定着につながっていると感じています。
── 店舗側への働きかけはどのように行っていますか?
佐藤さん:
現場の店長に対しては、「1人で抱え込まないでください」「過度に配慮しすぎないでください」ということを強く伝えています。
実際、障害のある方たちも「もっと働きたい」「目標を達成したい」という意欲を持っている方が多いんです。だからこそ、“任せてみて、困ったところをフォローする”というスタンスが大切。最初から「無理だろう」と線を引かないようにお願いしています。
── 社内の他の社員の意識に変化はありましたか?
竹村様:
変わったと思いますね。私どもの店舗では、(ウィズダイバーシティ参加企業である)ローランズさんのドライフラワーを店舗ディスプレイとして使わせていただいているんですが、「これを障害のある方たちが作ってくれている」と伝えることで、自然と関心が広がっていきました。
また、SABONではCSR活動として日比谷公園での花壇のボランティアや、使い終わったガラス容器の回収なども行っているので、その延長線上に障害者雇用が位置づけられている感覚があります。「会社として自然にやっていることのひとつ」として社員が受け止めてくれているのは、大きいですね。
── 組合に参加したことが、なぜここまでの変化を生んだのでしょうか?
竹村様:
一番大きかったのは、経営層を含めて「会社として障害者雇用に本気で取り組む」という明確な意思表明ができたことです。それまでは“やらなきゃいけないこと”として意識はありましたが、どこか受け身だったんです。
ウィズダイバーシティに入ることで、私たち人事が経営層に説明する機会も増えましたし、社長をはじめとする経営陣の理解が進みました。その意思が現場にも伝わって、「じゃあやってみよう」と受け入れが進んでいった。それが大きな転機だったと思います。
SABON Japan様の発表のあとは活発な質疑応答も行われました。
交流会
勉強会終了後は、場所をローランズ原宿店にうつし、ローランズカフェで提供しているケータリングをご賞味いただきながら、勉強会参加者間で交流を深めました。


勉強会に参加いただいた方には、ウィズダイバーシティに参加している福祉事業所からノベルティをお渡ししました。
●ローランズ(写真左):季節のフルーツ(パイナップル / ストロベリー / キウイ / マンゴー / ネーブルオレンジ / マンダリンオレンジなど)をミックスしたドライフルーツボトル
●ありがとうファーム(写真中央):ありがとうファームと能率手帳ブランド「NOLTY(ノルティ)」が共同開発したオリジナルノート
●KEIPE(写真右):規格外の国産さつまいもを使った、糖度60度を超える自然の甘さを味わえる干し芋

ウィズダイバーシティでは、組合に参加されたい中小企業や障害者福祉事業所(A型)を募集しています。お問い合わせはこちらから。