法定雇用率を満たすだけではない。本質的で持続的な在り方を目指す芝園開発が選んだ「共同雇用」

駐輪場・駐車場の運営を始め、自治体から受託した総合自転車対策事業を首都圏で展開する芝園開発株式会社は、すでに法定雇用率を達成していながら、ウィズダイバーシティ有限責任事業組合(LLP)への参画を決めました。

その背景にあったのは、「数字を満たすことだけを目的にするのではなく、障害のある方が安心して働ける環境を実現したい」という宮本社長の思いです。

今回は、芝園開発株式会社代表取締役・宮本薫氏と、ウィズダイバーシティ有限責任事業組合の発起人である株式会社ローランズ 代表取締役・福寿満希が、障害者雇用の本質や中小企業だからこそ実現できる新しい仕組みについて語り合いました。

(対談実施日:2026年7月6日)

目次

多くの地域で自転車対策を支える芝園開発

福寿:今日はお時間をいただきありがとうございます。まずは芝園開発さんの事業について教えてください。

宮本:当社は1986年に創業し、自治体から受託した総合自転車対策事業を中心に展開しています。放置自転車対策や駐輪場の整備・運営など、自転車を取り巻くさまざまな課題の解決に取り組んでいます。

福寿:駐輪場の管理だけでなく、放置自転車の警告や撤去、保管、返還まで含めて、自治体の自転車対策をトータルで担っていらっしゃるんですね。

宮本:2005年に初めて自治体の自転車対策業務を受託して以来、東京都内を中心に神奈川県や千葉県へと事業を広げ、現在は十数の自治体で総合自転車対策事業を受託しています。

撤去通告札は街頭指導員により放置自転車に取り付けられ、二次元コードにより放置自転車対策システム『CAPTURE』に車体情報や位置情報が紐付けられる。

法定雇用率を満たすだけでは、本質的な課題解決にならない

福寿:芝園開発さんは、もともと自社で障害者雇用を進められ、法定雇用率も達成されていたと伺っています。それでもなお、ウィズダイバーシティに参加しようと思われたのはなぜでしょうか。

芝園開発株式会社 代表取締役・宮本薫氏

宮本:当社は自治体から仕事を受託していることもあり、コンプライアンスは特に重視しています。障害者雇用についても同じで、法定雇用率を満たしていく必要があります。

毎年、さまざまな自治体から新しい仕事を受託して事業を拡大しているので、それに伴って従業員も増えていきます。当然、障害者の雇用も増やしていかなければなりません。そこで、専属の部署を作り、障害者の方をサポートする担当社員を配置するという話が、以前から役員会で出ていました。

ただ、私の中にはずっと引っかかっていたことがあったんです。「それって、本質的な課題解決になるの?」って。

駐輪場の管理や放置自転車対策という仕事は、基本的にはどの会社がやっても大きくサービスが変わるわけではありません。だからこそ、私たちはどのような価値を生み出す会社なのか。それを考え続けてきました。

障害者雇用についても同じです。法定雇用率を満たすだけでは、本質的な課題解決にはならないんじゃないかと思ったんです。

福寿:なるほど。法定雇用率を満たすことがゴールではなく、「障害のある方にとって、本当に働きやすい環境を提供できるのか」というところまで考えられていたんですね。

宮本:そうなんです。法定雇用率を満たすということは、本質的には障害のある方が安心して長く働ける場を提供することだと思うんです。数字は達成できていましたが、今後事業が拡大してより多くの障害当事者の方を採用していく中で、本当に当社だけでそれを実現できるのか。そこには限界を感じていました。

福寿:だからこそ、自社だけで抱え込むのではなく、本質的な解決ができる方法を探されたのですね。

宮本:何か良い方法はないかと調べていく中で、役員のひとりが厚生労働省のホームページでウィズダイバーシティを見つけてくれたんです。

模索する中で見つけた「共同雇用」という選択肢

ウィズダイバーシティ有限責任事業組合 発起人 福寿満希(株式会社ローランズ 代表取締役)

福寿:初めてウィズダイバーシティの話を聞かれたときは、どんな印象を持たれましたか。

宮本:正直なところ、最初は国が認めている正式な制度なのかと半信半疑だったんです。「これ大丈夫なの?」って、ウィズダイバーシティを見つけてくれた役員に聞いたぐらい(笑)。その後、詳しく調べてみると、国の正式な制度だと分かり、私たちが目指す本質的な課題をクリアできるのはこれだと感じました。

福寿:どのあたりが芝園開発さんの考え方と一番マッチしていたのでしょうか。

宮本:一番大きかったのは、共同雇用という考え方です。

企業が障害者雇用を進めるべきだということにはもちろん共感していますし、その必要性も理解しています。でも、私たちのような中小企業には、リソースにも受け入れ環境にも限界があります。

だからこそ、企業同士で力を合わせながら継続的に障害者雇用に取り組めるというウィズダイバーシティの仕組みが、私たちにはすごくしっくりきたんです。

数字を追うだけでは、本当の障害者雇用にはならない

福寿:ありがとうございます。今のお話は、ぜひ厚生労働省など行政にも伝えたいです。宮本さんがおっしゃった「数字を達成することが目的ではない」という考え方を、多くの企業にも知っていただきたいと感じました。

宮本:数字が示されて、まして達成できなければ納付金、ということになれば、企業としてはどうしてもその数字を達成することが目的になりがちです。でも、その先には働く人がいる。そこまで想像力を働かせて、本来目指すべきものを見失わないようにしたいと思っています。

福寿:今のお話に共感してくださる企業はたくさんいらっしゃると思います。ただ、まだまだ障害者共同雇用や算定特例の自体が知られていないことは、私たちも課題を感じています。同じように考えていても、なかなか言語化したり行動に結びつけられていない中小企業の経営者の方も多いのではないでしょうか。

宮本:そうですね。周りを見ても、「障害者雇用は進めたい。でも、自社だけで本当にできるのだろうか」と悩んでいる経営者は多いと思います。

ただ、そういう本音はなかなか口に出せないんです。「自社だけでは難しい」と言ってしまうことに抵抗があって、相談することすらためらっている経営者も少なくないのではないでしょうか。

ウィズダイバーシティはいわば【中小企業版・特例子会社】 

福寿:法定雇用率が段階的に引き上がっていく中で、これまでも雇用達成率が低い状態にあった中小企業にとって障害者雇用のハードルはますます高くなっています。実際には、法定雇用率を達成できている企業の多くが大企業なんですよね。

宮本:そうですね。中小企業が一社だけでやるには、どうしても限界があると思います。

福寿:障害のある方と一口に言っても、精神障害や身体障害、内部疾患などさまざまで、それぞれ必要な配慮も異なります。中小企業が一社だけで専門的な支援体制を整えるのは簡単ではありません。

だからこそ、一社で抱え込むのではなく、企業同士や福祉事業者が力を合わせる仕組みが必要なんです。 こうした考え方は、大企業では以前から仕組み(特例子会社)として取り入れられているんです。

現在、全国には631社(※2026年7月時点)の特例子会社があり、約6万人の障害者の方が働いています。大企業では、このように「一社で抱え込まない」仕組みが以前からあるんです。一方で、中小企業にはそれに相当する制度がありませんでした。

そこで、中小企業が力を合わせ、福祉事業者と連携しながら障害者雇用を進める仕組みとして立ち上げたのが、ウィズダイバーシティです。

宮本:なるほど、ウィズダイバーシティは、中小企業版の特例子会社といえる存在なんですね。

福寿:はい。その根底にあるのは、「一社で抱え込まない」という考え方です。企業同士と福祉事業者がそれぞれの強みを生かしながら連携することで、中小企業でも無理なく、継続的に障害者雇用へ取り組めると考えています。

それに福祉事業者に仕事を集約することで、一人ひとりの特性やスキルに合った業務を提供しやすくなります。その中で経験を積み、福祉サービスを卒業して一般企業へ就職する方が増えていく。そうした循環を作ることも、私たちが目指していることの1つです。

障害の有無ではなく、「働ける人」を採用してきた

福寿:芝園開発さんは、これまで法定雇用率を達成されてきました。どのように障害者雇用を進めてこられたのでしょうか。 

宮本:実は、私たちは特別に障害者枠での採用活動をしているわけではないんですよ。現場で働いてくださる方を、通常の採用活動の中で募集しています。

福寿:障害のある方はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

宮本:当社には身体障害の方もいれば、精神障害の方もいます。ただ、仕事内容は決して特別なものではありません。駐輪場での自転車整理や放置自転車への警告札の貼り付けなど、ほかのスタッフと同じ業務を担当していただいています。特別な条件を設けず募集した結果、自然とさまざまな方が働いてくださっています。

福寿:身体障害のある方だけでなく、精神障害のある方もいらっしゃるんですね。

宮本:身体障害の方が5名、精神障害の方が3名いらっしゃいます。精神障害のほうでは、長い方だと5年以上仕事を続けてくださっています。

福寿:それは本当に素晴らしいですね。精神障害のある方は、長く働き続けることが難しいケースも少なくありません。それだけ長く働けているということは、芝園開発さんには自然と働きやすい環境ができているのだと思います。 

宮本:ありがたいお言葉ですが、私たちは障害のある方向けに特別な環境を用意しているわけではないんですよ。だから、「障害のある方が長く働ける環境を実現できている会社か」と言われると、決してそうではありません。

先ほどもお話ししたように、今後さらに事業が拡大して、受け入れる人数が増えていったときに、今の体制を維持できるのかと考えると、正直かなり難しい。そこには限界を感じていたのが本音です。

仕事を切り出すだけではない。双方に価値のある取り組みへ 

福寿:芝園開発さんは、放置自転車に貼付するシールに二次元コードを貼る業務を、組合内の障害福祉事業所であるローランズに依頼いただいています。実際に取り組みをスタートされてみて、いかがでしょうか。

ローランズで行っている、放置自転車に貼付するシールに二次元コードを貼る業務の様子

宮本:細かなことまで丁寧に報告してくださるので、とても安心してお願いできています。先日も「二次元コードのシールが1枚破れてしまいました」と連絡をいただいたんです。そんなことまで報告してくださるのかと驚きましたし、それだけ一つひとつの仕事に責任を持って取り組んでくださっているんだと感じました。

福寿:この業務を担当している横須賀の拠点では、花を栽培するという屋外での作業が多いため、暑さが本格化する時期は、屋外作業ができる時間が限られてしまいます。そこで、今回芝園開発さんからのご依頼で、屋内で取り組める仕事ができたことは、とても大きな意味がありました

また、雨の日も屋外作業が難しくなるため、天候に左右されない仕事を確保できたことも大きなメリットだと感じています。

ローランズ横須賀拠点での屋外作業の様子
ローランズファームで栽培・出荷をしているひまわり

宮本:それはうれしいですね。やっぱり仕事をお願いする以上、お互いにとって意味のあるものでなければいけないと思うんです私たちも安心してお願いできますし、取り組んでくださるみなさんにも「やってよかった」と思っていただけるのであれば、本当にありがたいことです。

福寿:ローランズの横須賀拠点で働くメンバーからは「行政に関わる仕事ができて誇らしい」という声も上がっています。シールには区や警察署の名前も入っているので、「責任を持って取り組まなければ」と、とても集中して仕事に取り組んでいます。仕事を通じて、やりがいや誇りを感じられる機会になっていることを、私たちもうれしく思っています。

共同雇用だからこそ、仕事の幅はもっと広げられる 

福寿:今ご依頼いただいている二次元シール貼りの作業は、以前はどのように対応されていたのでしょうか。

宮本:もともとは撤去した自転車の保管所で、現場スタッフが空き時間を見つけて対応していました。今はその作業をローランズさんにお願いできたので、緊急度・重要度の高い仕事により注力できるようになっています。

福寿:現場のみなさんがより本質的な業務に集中できるようになったんですね。今後、「こういう仕事もお願いできそうだな」と考えられているものはありますか。

宮本:今お願いしているのは放置自転車のシール作業ですが、それだけではありません。駐輪場で使うステッカーや掲示物などもありますし、自治体ごとにさまざまな業務があります。

現在は14自治体の仕事を担当していますので、例えばローランズさんの拠点に近い川崎市の仕事など、地域に合わせてお願いできる業務はもっと増やしていけると思っています。

福寿:ありがとうございます。横須賀のほかに、東京都内にも弊社のスタッフが在籍しています。例えば都内でのお仕事であれば、ローランズの原宿拠点の当事者がチームで現場へ伺うことも可能です。

共同雇用のメリットの1つは、必要な仕事が発生したときに、チームで柔軟に対応できることです。繁忙期だけ人手が必要な時期の業務や、社内で新たに採用するほどではないけどボリュームがある業務でも、共同雇用という形の中で、法定雇用を作りだしながらお手伝いできます。

宮本:なるほど。そういう考え方もあるんですね。私たちに求められているのは、限られた人員で現場の業務をどう円滑に進めていくかなんです。DXも推進しているものの、人でしかできない仕事は必ず残ります。当社の経営戦略としても、社員には人でなければできない仕事に集中してもらうということが、ますます重要になると思っています。

共同雇用が広げる、中小企業と障害者雇用の可能性

宮本:ウィズダイバーシティに参加する企業がもっと増えれば、働きたいという意志のある障害のある方を、もっと受け入れていけるということですか。

福寿:その通りです。現在、一般企業で働くことを希望しながらも、その機会を得られていない障害のある方は、国内に約356万人いるといわれています。私たちは、福祉事業者が企業と連携し、そうした方々が社会で活躍できる機会を増やしていきたいと考えています。

昨年は、弊社のメンバーが約2万人の障害者雇用を実現しているスウェーデンの企業を視察しました。スウェーデンでは、国全体で障害のある方の雇用を支える仕組みが築かれています。日本でも、企業や福祉事業者が力を合わせる共同雇用の輪を広げ、より多くの方が働ける仕組みをつくっていきたいと思っています。

スウェーデン国営の就労支援企業
「Samhall facility at Lunda」(サムハル)視察の様子
スウェーデン国営の就労支援企業
「Samhall facility at Lunda」(サムハル)視察の様子

詳しくはこちらのプレスリリースもご参照ください。

宮本:今日お話を伺って、改めて理解が深まりました。おそらく、多くの中小企業経営者はまだこの仕組みを知らないだけなんだと思います。知る機会さえあれば、関心を持つ企業は多いのではないでしょうか。

福寿:ありがとうございます。そう言っていただけるのは本当に心強いです。

 現在、ウィズダイバーシティに参加する企業の従業員数は、全体で約4,000人です。みんなで219名の障害者雇用を、組合という形で支えています。この雇用を維持・拡大していくためには、一社だけではなく、参加企業のみなさんが同じ方向を向いて取り組んでいくことが欠かせません。

だからこそ、もっと多くの中小企業に共同雇用という選択肢を知っていただきたいと思っています。

「どんな仕事をお願いできるのか」「自社でも参加できるのか」といったことも含めて、これからさらに分かりやすく発信していきたいですね。

宮本:ぜひ広がってほしいですね。私も、関心のある会社があれば紹介したいと思います。

福寿:ありがとうございます。宮本さんの声は、これから共同雇用を知る中小企業にとって大きな後押しになると思います。本日は貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。

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